2018-10-23

OLから女優に転身で壁超え! chapter4

<仕事編>

第二回

第一回

 

チャンスの神様の前髪をつかんだ日

 

大物俳優の弟子になる。

11月の初旬、麻世は意を決し、係長に辞表を出した。女優になる夢も話した。

係長は呆然と麻世を見つめる。

 

「君、バカなことを言っちゃだめだよ。辞めるなんてもったいない」

 

その夜、母から電話があった。

 

「係長さんから電話があったわよ、お母さんから考え直すように言ってくださいって。

でも『あの子は一度言い出したら聞かないから』って言っといたわ」

 

母の言うとおりだった。

その時、麻世には、誰の言葉にも惑わされない強いものがみなぎっていた。

 

決めたら即、実行だ。

11/30に百貨店を退社。

12/1に上京。

12/2には北海道へ飛んでいた。

Sが主役の大作映画の撮影のためだった。

付き人としての新たな人生の始まりだった。

 

 

Sはそれまで、付き人をとったことがなかった。

しかし、極寒の北海道での撮影は過酷だ。

雑事や世話をお願いできる人がいないものか?

 

そんなとき、現れた麻世は、格好の人材だったのだろう。

Sが会う約束の日を一日勘違いしたのも、運命の悪戯かもしれない。

「最初の約束の日に会っていたら、社交辞令の上っ面な話で終わっていた気がします」

と麻世は振り返る。

 

こうして麻世は、チャンスの神様の前髪をつかんだ。

では、なぜつかめたのか?

それは、単純なこと。

「行動したから」と麻世は後に語っている。

叶えたい夢や目標が見つかったら、どんどん人に話す。

情報収集する。

こうなりたいと思う人の本を読んだり話を聞く(講演を聞く)。

 

そして、チャンスがやって来たら、ぐずぐず迷わずすぐに手を伸ばす。

チャンスの神様には前髪しかない。

一瞬のうちに通り過ぎてしまう。

その時、いざつかもうとしてももう間に合わない。

 

後ろ髪がないから、するりと抜けていってしまう。

そして、何よりもハードルを自分で高くしないこと。

きっと叶わないだろう、頑張ってはみるけど難しいだろう。

そんな風に自分でハードルを上げては、夢は叶わない。

 

麻世は、Sの付き人を数年務めた後、劇団「テアトルエコー」に入団。

演技、ダンス、発声などを2年間学んだ。

そして、NHKプロモーションの俳優マネージメント部門「アクターズゼミナール」の門をくぐった。

麻世にとって、過酷な試練が待ち構えていることも知らずに。

 

アクターズゼミナールとは、俳優の卵たちがNHKのディレクターに芝居を見せて、役をつかんでいくという部門だ。

そこでの俳優訓練は、感情を隠さず表に出しきることだった。

 

これが、麻世には大きな壁だった。

 

なぜならそれまで麻世は、喜怒哀楽を出さない人間、泣かない女だったから。

思えば、母に心配をかけたくないあまりに、幼いころから強い自分を演じていたのかもしれない。

優等生で完璧な子ども。

 

「しっかりしているね」と大人たちから言われ続けてきた。

そういう自分を誇りにさえ思っていた。

 

なのに、感情を思いっきり出せ?

そんなものは自分にないとさえ思っていたのに。

 

この時、麻世は初めて気付いた。

これまで本当の自分を隠して、ペルソナの人生を歩んできたことに。

 

仮面を外し、抹消していた本当の自分を人前にさらけ出す。

本当の自分は、どうしようもなく不完全で弱い自分。

欠点だらけの自分に眼をそらさず、向き合う作業。

辛かった。

 

演出家から評価された演技も、テレビで観るとなんて下手なんだろう、と自己嫌悪に陥った。

芝居仲間とお酒を飲むと、「私なんか誰も求めてない!」と泣き叫ぶ。

 

麻世は考えた。

 

「なぜ、私は女優を目指したのだろうか?」

 

そんな疑問への答えが出たのは、訓練が始まって1年もたったころだった。

すべてのパズルが埋まったかのように。

 

考えてみると、潜在意識には、こんな思いが眠っていたのかもしれない。

 

「私は、父にずっと存在を否定されてきた」、

「私は生きていてよいのか?」

「私が生まれていなかったら、母にはもっと別の人生があったかもしれない」

 

父に望まれなかった私、母の人生の邪魔をしてしまった自分を、無意識に否定し抹消しようとしていた。

反面、父に肯定されたい、オンリーワンの存在になりたい、ともがいていた。

仮面を外し、弱い自分、欠点だらけの自分をさらけ出し、自分を解放してやりたかった。

本当の自分を生きたかったのだ。

 

仕事とは、自分を変えるために、成長させるために、本当の自分を生きるために、

無意識に選んでいるものなのかもしれない。

 

麻世は過酷な訓練を終え、ペルソナから解放。

そして、役者に必要なリアルな感情表現は、過去の父に抱いた想いを思い出せば、自然と演じることができるようになった。

 

深く傷ついたことがない、心から悲しい思いをしたことがないからわからない。

そんな役者仲間を見ると、私の家族との経験は何も無駄ではなかったことにも気づいた。

 

順調に、ドラマの役をつかみ、大河ドラマ、時代劇、朝ドラなど次々と出演を果たした。

女優になるという夢を現実のものにしたのだ。

 

続く

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